“情報の一等地”をめぐる競争──Google Nowについて改めて考える

2013年05月02日 10:30 by 星 暁雄
“情報の一等地”をめぐる競争──Google Nowについて改めて考える

Google Nowについて改めて考える

Google Nowについて改めて考える

本記事では、「Google Now」について考えてみたい。Google Nowは2012年6月に開催された開発者向けイベント「Google I/O 2012」でAndroid 4.1「Jelly Bean」の“目玉”機能として発表された。

 

Android 4.1以降では標準搭載されている。

 

Google Nowは、何の操作をしなくても、その時に利用者が必要とするであろう情報を“おすすめ”する「カード」を表示してくれる。

 

“おすすめ”する情報の「カード」は、「誕生日」「イベント」「災害情報」などがある。ただし、日本国内では利用できない「カード」も含まれている。詳しくはこちらを参考にしてほしい。

 

正直に言うと、筆者には今ひとつGoogle Nowの有り難みが実感できていない。

 

Google Nowに、なぜ有り難みを感じないのか
Google Nowの表示例。カレンダーに登録した予定と天気予報を表示している

Google Nowの表示例。カレンダーに登録した予定と天気予報を表示している

手元のAndroidスマートフォンに「電車の発車時間」や「カレンダーに入れた予定」など、情報の「カード」が表示されて少し驚くことがあるが、本当に役に立ったと感じた事は、残念ながらまだない。

 

もし海外旅行中だったり米国在住だったりすれば、飛行機のフライト予定変更の情報を知らせてくれたり、道路の混雑状況を即座に知らせてくれる、といった局面で役に立つ場合があるのかもしれない。

 

米国人によるGoogle Nowの評価としては、例えばこの記事がある。そちらを見ると、問題点はあるもののそれを補ってあまりあるほど、便利に使えていることがわかった。

 

ここで視点を変えてみよう。

 

利用者の立場からではなく、Androidを推進するGoogleという企業が考えていることは何だろうか──こう考えると、筆者にとってGoogle Nowはとても興味深い機能に見える。Googleにとって非常に重要な役割を持つ機能であることが想像できるからだ。

 

AndroidのUI上での“特別待遇”が与えられている
Google Nowの起動は、検索もしくは画面下部から長押しして上部へフリックで行う

Google Nowの起動は、検索もしくは画面下部から長押しして上部へフリックで行う

Android 4.1以降のホーム画面上では、Google Nowによる“おすすめ”情報を記した「カード」を一挙動で呼び出すことができる。

 

Google Nowは、AndroidのUI(ユーザー・インタフェース)の中で他の機能やアプリより素早くアクセスできる場所を与えられた、いわば“特別待遇”の機能だ。

 

ちなみにiPhoneの場合、このような“特別待遇”は音声アシスタンスサービス「Siri」に与えられている。

 

GoogleがこのようなUI上の決定をし、Google Nowに“特別待遇”を与えた理由は何か。ひとつは利用者に便利な機能を提供し、Androidの価値を高めることだ。

 

もうひとつは、利用者にGoogle Nowを使ってもらうことで、Googleがより多くのデータを集めるためだと筆者は考えている。

 

スマートフォンは、利用者にとって最も重要な情報がそこを通過する、いわば“情報の一等地”である。

 

Googleが蓄積した膨大な知識を格納したデータベースや検索技術、そしてスマートフォンが取得した位置情報を材料として、情報の「おすすめ」(リコメンデーション)を行うことで、この“情報の一等地”であるスマートフォンのスクリーンの価値をさらに高めよう──そして同時にGoogle最大のサービスである検索で行われている結果のカスタマイズのために利用者の情報をより豊かにしよう──このようなGoogleの思惑が、Google Nowからは読み取れる。

 

利用者にとっては、Google Nowを利用することは、利用者に固有の情報がどんどんGoogleに蓄積されていくことを意味する。

 

Google Nowが表示する「アクティビティ」カード。過去1カ月間に徒歩または自転車で移動した距離を示している

Google Nowが表示する「アクティビティ」カード。過去1カ月間に徒歩または自転車で移動した距離を示している

筆者も、「1カ月の歩行距離」を示すGoogle Nowのカードが突然表示された時には、「いったいGoogleはどれだけ自分の情報を持っているのだろう?」とやや警戒気味の気分になった。

 

GoogleによるGoogle Nowの説明を見ると、Google Nowが“おすすめ”する情報を選ぶため、「現在地」や「カレンダー」の情報を活用することが明記されている。

 

また「Google サービスからの情報(ウェブ履歴など)も利用して、スポーツやフライトの最新情報を知らせる」、とある。Gmailに届いたメールの情報も、「Gmailカード」を表示するために使われている。

 

例えば、デスクトップPCで訪問先の名称をGoogleで検索すると、スマートフォン上のGoogle Nowも同じ情報を知る。このように、多くの個人特有の情報を元にして“おすすめ”情報は選ばれている。

 

Googleは利用者に関する多くのデータをすでに持っている。スマートフォンの位置情報とその履歴が分かれば、利用者の行動はほとんど把握できる。

 

これに加えてカレンダーの内容やGoogle検索・Webページ閲覧の履歴、Gmailに届くメールの一部の情報もある。Googleは、これらの豊富な情報をインプットとして使うことで、今後よりサービスの高度化を図っていくことを考えているはずだ。

 

それはGoogle Nowという単独のサービスにとどまらず、Googleの本業にして最大のサービスであるGoogle検索の結果のカスタマイズなど同社サービスの価値向上にも使われていくと考えた方がいいだろう。

 

自分の情報を渡さないようにするか、あるいは積極的に渡すか

個人情報保護という観点で考えるなら、Googleアカウントという個人情報に直接ひも付いたこれらの情報(検索・行動・Web閲覧の履歴、メールなど)がどのように保管されていて、それが利用者が望まない形で使われるリスクはあるだろうか、という点を心配する人もいるだろう。

 

実際、Googleに情報を渡したくないため「Web履歴を保存しない」「検索履歴を保存しない」「現在地送信機能をオフにする」「ロケーション履歴をオフにする」設定をする利用者もいる。Google Nowもオフにすることができる。

 

反対に、Googleに対して積極的に自分の情報を渡すことで、Google Nowからより価値が高い“おすすめ”情報を期待する考え方もある。

 

移動中に、自宅や勤務先への移動時間、最寄りの交通機関を教えてくれる

移動中に、自宅や勤務先への移動時間、最寄りの交通機関を教えてくれる

Google Nowの設定では、「自宅」と「勤務先」を入力できる。これにより、「通勤経路の交通情報」など“おすすめ”情報の精度が高まることが期待できる。

 

スマートフォン上のサービス(地図、メール、メッセージ、検索…)を使うことは、それに関わる自分の情報(位置情報、メールやメッセージの内容、検索履歴…)をサービス事業者に渡すということだ。

 

スマートフォンの利用者は、程度の差はあるが、自分の情報をサービス事業者に渡すことで利便性を得る。

 

そのうえで、自分の情報をなるべく渡さないことを選択するか、積極的に情報を渡すことを選択するか──ここは価値観により判断が分かれるところだろう。

 

Google Nowは、どこへ向かうのか

Google Nowに関して筆者が気になっているのは、Googleが提案するメガネ型デバイス「Google Glass」との関連だ。

 

Google Nowが目指している“何もしないのにおすすめ情報が表示される”機能は、スマートフォンよりもGoogle Glassによりふさわしいようにも思える。

 

Google Glassは、スマートフォン以上に利用者に密着した情報が流れるデバイスになるはずだからだ。実際、2013年4月より開発者向けに先行して配布されているGoogle Glassの試作版では、Google Nowのカードを表示する機能があるということだ(参考記事はコチラ)。

 

今後、AndroidスマートフォンとGoogle Glassの両方のデバイスを対象に、Google Nowの機能をより高度にする努力が続くことになるだろう。