黒田硫黄『茄子』~予測不能!変幻自在・読んだこともない不思議な連想マンガ~

2012年04月20日 16:05 by TOP BOOKS編集部
  • list
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
黒田硫黄『茄子』第1巻表紙

『茄子』第1巻表紙

『茄子』は作品中に「茄子」を登場させることだけがルールの、オムニバス短編作品集です、と概要を説明されてもなにもイメージのできませんよね。でもひとことで説明することができないのがこのマンガのおもしろいところ。
その場かぎりのジャムセッション、冷蔵庫の中にある材料で作るオリジナル料理、日常の中のピタゴラ装置。そんな印象が残る融通無碍の快作です!
エピソードの一つ「アンダルシアの夏」はアニメーション映画としても公開され「カンヌ国際映画祭」でも好評を博しました。




不思議な魅力のある登場人物たち

本作に登場する人物はじつにさまざま。
第一巻では、片田舎で晴耕雨読の日々を過ごすヒゲのおじさん、高間。
親に夜逃げされ、弟妹と細々生活する女子校生の高橋。
スペインの自転車ロードレース、ブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン版のツール・ド・フランスと言えばイメージしやすいでしょうか?)のプロロードレーサー、地元期待の星ぺぺ・ベネンヘリ。
そして、実家で気ままにフリーター暮らしを楽しんでいるハタチの女の子、国重。


彼らに共通するのは同じ世界で生活していることぐらい。なのに、この短編集にどんどん引き込まれてしまう理由は、それぞれの「生活」、「日々生きていることのリアル」を、きわめて良質に、丁寧に描きながら即興劇のようにドラマが進行していくから。



写実とは違った「リアリティ」

「毎日の生活のリアル」って…腹が減ったから、冷蔵庫の中身ともらい物で名前のない料理を作って、作りすぎたぶんは明日のお弁当にして…って思ったら全部食べちゃったわ、使った食器や鍋で流しが一杯なんだけど洗うの面倒だなぁ…。みたいな、物語の上では「雑音」になってしまう、でも私たちの世界には当たり前にある「リアル」。


黒田硫黄『茄子』第3巻表紙

『茄子』第3巻表紙


そういう、トレンディドラマでは切り捨てられてしまうような部分が、この短編集ではキャラを引き立たせる妙味になり、同時に物語を生み出す重要なキーになっています。


そして「私たちが暮らすこの世界との地続き感」を楽しむうちに、私たちは、『茄子』の独特な物語に没入してゆくことに。
私たちは、このマンガを通して自分とは違うタイプの、でもどこか自分とよく似た感覚を持つキャラクターたちの生き様を、気持ちよく追体験して行くのです!!


そこにはハリウッド的シナリオのような快活さや、わかりやすさはありません。
ですが、「ぬらり」と生きる人間のしたたかさや、とりとめのない絶妙な会話、毎日の食卓の楽しみや、そのなかでふいに起こる事件。それらが深い味わいの描線によって見事に表現され、私たちをググッと惹き付けるのです!



新感覚のマンガの愉しさ!

本作を読む際には、ぜひゆっくりと、そして2度3度と読んでみることをお勧めします。
はじめはとっつきにくいかもしれません。なぜなら、一見すると絵が地味でコマが「ごちゃっ」と読みにくいように見えるから。けれど、しばらく読んで慣れてしまえばこっちのもの!気付いた時には味わい深いマンガの世界に肩までドップリ。次々にページをめくってガシガシ読み進めるマンガとはひと味違った、今までにないマンガの愉しさを見つけることができるでしょう。



「マンガってこんなもんだろ」なんて固定観念を持ってしまった大人にこそぜひとも読んでもらいたいマンガです!

  • list
  • このエントリーをはてなブックマークに追加