李學仁/王欣太『蒼天航路』 ~破格の英雄・曹操を主人公にした「ネオ三国志」~

2012年05月08日 16:00 by TOP BOOKS編集部

『蒼天航路』第1巻表紙

『蒼天航路』第1巻表紙

『蒼天航路』は、1994年10月から2005年11月まで「モーニング」で連載された長編歴史マンガ。正史の「三国志」や、「三国志演義」に独自のアレンジを加え、魏の曹操の一生を描いた新解釈の「三国志」です。2009年には日本テレビでアニメ化もされています。




「曹操」視点の三国志

「三国志」と言えば、通して読んだことがない人でも伝え聞いたことがある、破格の英傑たちの戦物語。日本では、『三国志演義』をベースにした吉川英治作『三国志』が最も影響力の大きい作品とされています(横山光輝のマンガ『三国志』も吉川英治作品を元にした作品)。知っての通り主人公は「仁徳にあふれる君主」であり民衆視点での「かくあるべき王」の姿たる蜀の劉備。曹操は悪辣な奸雄として描かれた内容。
ですが『蒼天航路』ではこの悪役・曹操こそが主人公として描かれています。


この作品は、群雄割拠の三国時代の英雄たちを、ありきたりなモノサシで計らずに、「破格の人物」たる姿を圧倒的なスケールで描くことに成功した、「ネオ三国志」と呼べるものなのです。


古い価値観を顧みず、新しい価値観を創出する並外れた能力。軍事、政治のみならず、あらゆる分野に天才的な才覚を発揮した曹操は、まさに破格の人物。そんな凄まじい側面がクローズアップして描かれています。長年頭痛に悩まされいた曹操が、激情を抑えるようにと諫められた場面で、「感情をぶっ放さずしてなんの命だ!」と言い切るひとコマは、『蒼天航路』での曹操像をうまく表現した場面。
何事においても、感情も含め全身全霊をもって理想に向けて全速力で駆け抜けてゆく魅力的な英雄像が描かれています。



『蒼天航路』第36巻表紙

『蒼天航路』第36巻表紙


英傑たちの圧倒的な魅力!

他の英傑たちも、登場している場では「全員が主人公」と呼べるような形で、非常に魅力的に描かれます。キャラクターデザインも独創的で、董卓はフランシス・F・コッポラの戦争映画『地獄の黙示録』のカーツ大佐を演じるマーロン・ブランドそのもの!「最強の武将」呂布にいたってはドレッドヘアーで、全身に血管を浮き立たせる巨躯。愛馬である赤兎と、殴り合ってじゃれるという異様な描き。ほかのキャラクターたちも王欣太によって、新しい命を吹き込まれています。



そんな「ネオ三国志」の意匠は、この作品以降の「三国志関連作品」に多大な影響を与えています。コーエー(現・コーエーテクモゲームス)の有名な歴史シミュレーションゲーム『三国志』シリーズや、アクションゲーム『真・三国無双』シリーズにもこのマンガ作品の影響とおぼしきキャラクターデザインの変化が散見されているのです。



まるで神話に登場する神々を描いたような(実際、この時代の英雄は現在では神格化されているのであながち間違った表現でもないかもしれません)、異様で力強いキャラクターと次々にページをめくりたくなる高いエンターテイメント性を備えたストーリー。
平成の三国志ブームのさきがけとも呼べるこの作品を知らずに、「三国志」を語ることはできません!必読です!