漆原友紀『蟲師』~これぞ美しき日本の幻想奇譚!~

2012年05月10日 16:00 by TOP BOOKS編集部

『蟲師』第1巻表紙

『蟲師』第1巻表紙

『蟲師』は講談社の『アフタヌーン シーズン増刊』および『月刊アフタヌーン』に1999年から2008年まで隔月連載された1話完結形式の伝奇マンガです。フジテレビ系列でテレビアニメ化され、2007年には大友克洋監督、主演オダギリジョーで実写映画化もされました。



近代〜近代の架空の日本が舞台

物語の舞台は、「鎖国をし続けている日本」もしくは「江戸と明治の間にもうひと時代ある」という設定の架空の日本です。
タイトルにも入っている「蟲」とは、ウィルス・菌・寄生虫のような性質を持った、霊・妖怪・モノノケのような超常的な生物群のことで、大抵の人々には見えないもの。場合によっては人間の「害」になってしまうこともある、この物語世界独特の異形の存在。
「蟲師」はその「蟲」に精通し、それによって起きる様々な「怪異」を解き明かし解決へと導くスペシャリストのことで、本作の主人公である白髪に緑色の目を持つ「ギンコ」は本作のタイトルどおり「蟲師」として活躍します。
なのでこの作品、ザックリと分類するなら「怪談や幽霊を扱ったマンガ・妖怪譚」と呼べるかもしれません。しかしその範疇に収まりきらない内容であるところに、このマンガの「魅力」があるのです!


『蟲師』第10巻表紙

『蟲師』第10巻表紙

マンガを読み進めると、畏怖を感じる暗く深い豊かな森、日本の原風景を感じさせる山里、茅葺きの伝統的な家屋など、日本人が心の奥で共鳴するような趣のある描きで溢れています。
豊穣な自然のなかで生きる人々は、和装で登場し、登場人物のほとんどは農業や漁業、または職人などを生業とする「庶民」です。まるで、ほんとうの自分たちの数代前の先祖のような存在に感じることができます。
その描き自体は「緻密で写実的な描写」というワケではありません。しかし、森の深さや、人々の暮らしの息づかいを、ありありと感じることができるのは、作者の自然や里山への造詣の深さと、繊細な感覚に依る部分が大きいのではないでしょうか!




メタファーとしての「蟲」

そんな濃密な自然の中で、超常の存在の「蟲」は他の無数の生物たちと同じように存在しています。
先述したように、悪さをするために存在するのではなく、ひっそりとそこで生きているだけ。その超常的性質は、美しくさえ感じる力です。しかし人間と不幸な出会いをしてしまい「害」と見なされた場合、蟲師によって処分されてしまうのです。
見方を変えれば「蟲」は物語上では「ハプニングの原因」=「物語を展開させる装置」に過ぎません!主軸になっているのは、その怪異と出会いハプニングに遭遇した「人間」の以前と以後であり、根底に描かれているのは、不可視で難儀な、時に不条理な「運命」との「共生」の物語なのです!!


過酷な自然と共生する人間の物語。それは宮崎駿の名作『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』にも通じるテーマと言えるでしょう。
「タタリ神」に呪いを受けた「アシタカ」のように、本作の主人公「ギンコ」も「蟲」の受難から立ち上がった存在。ゆえにその中でどう「生きる」ことが可能なのかを提示し、また見守る存在として登場するのです。
これは、表情豊かな四季があり、様々な自然災害が数多く発生するこの国ならではの視点から生まれた物語と言えるかもしれません。



人類にとって永遠に切り離すことができないであろうこの壮大なテーマを、『蟲師』では「蟲」という架空の存在をメタファーにして、幻想的なエンターテイメント作品に仕上げているのです!
このマンガで、幼少の頃に感じた、自然現象の不思議や、視えないけれど居る(かもしれない)モノへの「怖さ」の感覚を思い出し、自分の身近にある「自然」を新鮮な視点で見つめなおしてみませんか?