久住昌之/谷口ジロー『孤独のグルメ』~オジサンが食事をするだけの異色ハードボイルド・グルメマンガ!~

2012年05月24日 16:00 by TOP BOOKS編集部

『孤独のグルメ』新装版表紙

『孤独のグルメ』新装版表紙

「孤独のグルメ」は1994年4月から1996年6月まで扶桑社「月刊PANIA」に連載された作品です。2012年にはテレビ東京系列で実写ドラマ化されています。


主人公は雑貨輸入商を営む中年男性・井之頭五郎。取引の後や仕事の合間に食事処へふらりと立ち寄り、料理を注文して一人で食す。というだけの、1話8ページの「異色グルメマンガ」は、発売後数年を経てインターネットを中心に話題となり、ロングセラー作品になりました。イタリア・フランスでも翻訳版が出てベストセラーになっている人気作です。




目をみはる圧倒的描写!

舞台の中心は現代の東京。登場する店や街の景観は、いずれも実在している場所をモデルにしたもので(第1話の初出が1994年ということもあり今は無き風景、店舗も多い)、原作者の体験を元にしています。


作画担当の、世界的人気を誇る巨匠・谷口ジローさんが、数百枚の参考写真から描き出した、リアリズムに迫る作品世界は、次のページへとフリックする手を思わず手を止めてしまうほどすばらしいできあがりです。

月刊「ガロ」でデビューをした原作者・久住昌之さんの視点と物語運びにはなんとも言えない味わいがあります。この物語は基本「主人公の独白」で展開する内容、独特のおもしろさが込み上げてきます。それも、爆笑するような笑いではなく、ジワジワと腹にくる不思議な滑稽さです。


それもそのはず、写実的に描かれた現代の日本が舞台、主人公は先述したようにサラリーマンより少しだけ自由な身分の、リアクションの薄い「ごくふつう」の中年男性。ストーリーは、「目についたお店で一人で料理を食べること」だけなのだから、そもそもそんな物語をわざわざ読もうとする時点で、すでに滑稽な世界に足を踏み入れているのでしょう。



ひとりメシの醍醐味!

主人公が人生の中の「小さな癒し」と捉えている食事の時間。初めて入る店の「構え」から、店内と客の雰囲気、メニューひとつひとつまであれやこれやと思索します。


周りの常連客が注文するメニューなどに、店の特徴を見出し、自分の腹具合と相談しながら最良の注文=攻略をする。
注文をした後や、実際に料理がきた後で自分が手痛い失敗(焼肉屋で勢いで追加注文した「チャプチェ」が思いのほかボリュームがあったり、丼と一緒に注文した小鉢が同じ材料でカブってしまったり)をしながらも、豪快に平らげていく。


「大正解!」とか「うん!これこれ!」などと、「心の声」で料理ひとつひとつを評価を下していく姿は、ちょっとした哀愁を含みながら小気味よく描かれます。腹が減っているせいかよく多めに注文しすぎてしまうときも多く、それでも「ええい!」と一気呵成に口へと運ぶところなど、妙なリアリティがあります。


彼の姿に思わず自分を重ねてしまう読者も多いかも知れません!



シュールな笑いときわめて写実的な絵。すばらしい「ミスマッチ」の世界を体験してみてください。読後に自分で「孤独のグルメ」流の食べ方を実践してみるのもおすすめです!